研究助成金(競争的資金)に基づく研究概要

平成20年度厚生労働科学研究費補助金
(医療技術実用化総合(臨床研究・予防・治療技術開発研究事業事業)


研究課題名(課題番号):主観的個別化患者情報のデータマイニングによる漢方・鍼灸の新規エビデンスの創出(H20-臨床研究- 一般-012)

概要:
本研究は、患者側からの主観的医療情報をベースにしたデータマイニングによって、治療効果の判定や漢方・鍼灸の診断「証」と症状との関連性を解析し、漢方・鍼灸治療の新たな臨床研究の手法を創出することを目的としています。漢方・鍼灸は、患者の主観を元に治療を構築するため、エビデンス創出には患者の主観的評価を取り入れる、という発想の転換が必要です。実地診療の場の治療効果の判定や、伝統医学的診断である「証」の決定では、患者ならびに診療者の主観を軸として評価されています。しかしながら、これらの検証がなされていない以上、「証」に基づく研究デザイン自体が困難といえます。本研究は漢方・鍼灸医学のエビデンスを、従来の手法とは全く異なる伝統医療の特質を生かした手法を用いて評価しようとするものです。
方法としては、患者の愁訴の変化を自動問診システムにより診療毎に集積していきます。患者愁訴の変化はvisual analogue scale (VAS) にて数値化します。これに加えて、医療提供者側からは診察所見、処方、鍼灸治療の手技、経穴などの情報を入力し、同じく診療毎に蓄積していきます。このシステムは診療目的で既に稼動しているものを、大規模データの蓄積ならびにデータマイニングによる解析システムの開発が可能なように改変していきます。
本研究は伝統医学の検証方法として国内外に例のないものであり、また、本システムは診療現場にて患者の情報が回収されていくため、randomized control trailに比し、低コストで大規模の情報を集積・解析することが可能となります。WHO国際機能分類(ICF)では患者中心の医療評価が求められていますが、患者中心のエビデンスの創出は、単に漢方診療の世界だけではなく、幅広く医療現場に応用可能といえます。さらに、得られたデータから将来的に漢方・鍼灸治療の標準化ならびに診療支援が可能となります。

平成20年度の成果概要:
個別化診療情報解析システムの検討
個別化診療である漢方・鍼灸治療独特の診療情報解析システムの検討を行ううえで、まず、慶應義塾大学病院漢方医学センター診療部を受診した平成17年度、18年度初診患者1700名余りにおいて、漢方医学で比較的重要な症状である冷えあるいは頭痛と他の症状との関連性について、クレメンタインを用いて解析しました。

自動問診システムからのデータ蓄積システムの構築
現在慶應義塾大学医学部にて行われている自動問診システムをデータ収集目的に改変しました。現行のシステムでは128項目から成る質問票を用いて包括的に患者の身体・及び精神状態を評価するものです。診療ごとに患者が入力し、それをVASスケール上でデータ蓄積するものです。問診システムにおいて評価された患者の状態に対して投与された薬剤や処置については問診終了後に医師が記入します。再診時以降は、VASスケールを用いて症状の経過を記録します。本システムによって、患者の視点から評価された症状の変化が、治療経過と共に時系列で記録されていく事になります。問診票を用いて患者を評価することで、SF-36等によるQOL評価とは異なり、身体所見を中心に、より包括的で具体的な評価が可能となるわけです。データ収集の増加に伴い、データベースの基本をエクセルからアクセスに変更しました。

鍼灸での自動問診システムの構築
基本的には薬物療法でも鍼灸治療でも患者愁訴を取得する方法は同じですが、鍼灸治療の場合、特に運動器系疾患に伴う1)痛み 2)日常生活動作の質(QOL)に重きを置いた問診項目が必要になります。電子カルテに 3)関節可動域 4)筋力、知覚等神経学的所見 5)他の罹患疾患 6)治療内容等の診療情報を記録します。一方、内科系疾患に対しては、鍼灸治療による自覚症状の推移を、漢方の証と関連する主要な愁訴を中心に記録します。20年度においては、施術者間のデータ収集の差を考慮した基本データ収集項目を選定しています。

上記の内容については、厚生労働省科学研究事業「臨床研究・予防・治療技術開発研究ウェブサイト」からもご覧になれます。
一般用(PDF)http://www.jmacct.med.or.jp/pediatric/pdf/pamphlet20/pamphlet16.pdf#zoom=100
研究者用(PDF)http://www.jmacct.med.or.jp/pediatric/iryo/pdf/16_20_watanabe.pdf#zoom=100

本研究の成果発表会のご報告:
平成21年11月20日、本研究の成果発表会「臨床研究・予防・治療技術開発研究推進事業 研究成果等普及啓発事業『21世紀漢方フォーラム』(研究者向け・一般向け)」を行いました。 資料に関しましては、こちらをご覧ください。

【研究者向け】

研究講演1:患者中心医療へのパラダイムシフト
(慶應義塾大学医学部漢方医学センター 渡辺賢治)

研究講演2:慶應義塾大学病院漢方医学センター診療部における自動問診システムの概要
(日興通信株式会社 多田浩貴)

研究講演3:主観的個別化患者情報のデータマイニングによる漢方問診・診断・処方データの解析方法1
(東京大学医学研究所 ヒトゲノム解析センター DNA情報解析分野 井元清哉)

研究講演4:主観的個別化患者情報のデータマイニングによる漢方問診・診断・処方データの解析方法2
(東京大学大学院工学系研究科 美馬秀樹)

研究講演5:鍼灸における自動問診・診療システム
(日本伝統医療科学大学院大学 統合医療研究科 臨床鍼灸学/慶應義塾大学医学部漢方医学センター 塚田信吾)
(慶應義塾大学医学部漢方医学センター 宗形佳織)
(日興通信株式会社 多田浩貴)
(慶應義塾大学医学部漢方医学センター 渡辺賢治)
(慶應義塾大学医学部漢方医学センター 西村甲)

研究招待講演:自己組織化マップ(SOM)による頭痛処方の解析
(自治医科大学 看護学部 竹田俊明)
(地域医療学センター 東洋医学部門/神経内科学 村松慎一)

研究者向け発表会・講演原稿


【一般向け】

一般講演1:患者中心医療へのパラダイムシフト
(慶應義塾大学医学部漢方医学センター 渡辺賢治)

一般講演2:慶應義塾大学病院漢方医学センター診療部における自動問診システムの概要
(日興通信株式会社 多田浩貴)

一般講演3:自動問診システムによる情報処理解析の紹介(漢方治療)
(慶應義塾大学医学部漢方医学センター 西村甲)

一般講演4:鍼灸における自動問診・診療システム
(日本伝統医療科学大学院大学 統合医療研究科 臨床鍼灸学/慶應義塾大学医学部漢方医学センター 塚田信吾)
(慶應義塾大学医学部漢方医学センター 宗形佳織)
(日興通信株式会社 多田浩貴)
(慶應義塾大学医学部漢方医学センター 渡辺賢治)
(慶應義塾大学医学部漢方医学センター 西村甲)

一般招待講演:健康情報を活用するための基盤構築
(経済産業省商務情報政策局 医療・福祉機器産業室 増永明)

一般向け発表会・講演原稿

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